【発明の名称】 筆蹟等の異同鑑定方法及び異同鑑定に使用する装置
【発明者】 【氏名】早津 輝雄

【要約】 【課題】筆蹟等の被鑑定表示物の異同識別を正確にかつ客観的に鑑定することを可能とし、信頼性の高い鑑定を行えるようにする。

【解決手段】筆蹟、印影、指紋等の被鑑定表示物を比較対照して異同を鑑定する筆跡等の異同鑑定に使用する装置であって、前記比較対照すべき被鑑定表示物を拡大表示する顕微鏡10等の拡大表示手段と、該拡大表示手段により前記被鑑定表示物60を拡大表示する際に、被鑑定表示物とともに被鑑定表示物の態様を基準間隔線とともに視認するためのスケール表示板を備えた検査用アタッチメント25等のスケール表示手段と、前記被鑑定表示物と前記スケール表示手段による基準間隔線の像を表示するモニターテレビ30等の表示手段とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 筆蹟、印影、指紋等の被鑑定表示物を比較対照して異同を鑑定する筆跡等の異同鑑定方法において、前記比較対照すべき被鑑定表示物を光学機器等により拡大表示し、拡大表示された被鑑定表示物を、格子状等の基準間隔線を基準として各々の被鑑定表示物の態様を視認することにより、被鑑定表示物の異同を識別することを特徴とする筆蹟等の異同鑑定方法。
【請求項2】 筆蹟、印影、指紋等の被鑑定表示物を比較対照して異同を鑑定する筆跡等の異同鑑定に使用する装置であって、前記比較対照すべき被鑑定表示物を拡大表示する拡大表示手段と、該拡大表示手段により前記被鑑定表示物を拡大表示する際に、被鑑定表示物とともに被鑑定表示物の態様を基準間隔線とともに視認するためのスケール表示手段と、前記被鑑定表示物と前記スケール表示手段による基準間隔線の像を表示する表示手段とを備えていることを特徴とする筆蹟等の異同鑑定に使用する装置。
【請求項3】 前記拡大表示手段が、被鑑定表示物を視認するための顕微鏡と、該顕微鏡による像を視認するテレビカメラ等の受像装置であり、前記スケール表示手段が、前記被鑑定表示物を前記顕微鏡により視認する際に、前記被鑑定表示物に接して使用される透明板に前記基準間隔線が表示されたスケール表示板であることを特徴とする請求項2記載の筆蹟等の異同鑑定に使用する装置。
【請求項4】 前記拡大表示手段が、被鑑定表示物を視認するための顕微鏡と、該顕微鏡による像を視認するテレビカメラ等の受像装置であり、前記スケール表示手段が、前記顕微鏡に装着可能に設けられ、底部に透明板に前記基準間隔線が設けられたスケール表示板を備えた筒状の検査用アタッチメントであることを特徴とする請求項2記載の筆蹟等の異同鑑定に使用する装置。
【請求項5】 前記拡大表示手段が、被鑑定表示物を視認するための顕微鏡と、該顕微鏡による像を視認するテレビカメラ等の受像装置を備え、前記スケール表示手段が、前記受像装置による画像を出力するモニターテレビ等の表示手段の画面に貼着して使用される、前記基準間隔線が表示された透明フィルムであることを特徴とする請求項2記載の筆蹟等の異同鑑定に使用する装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は筆蹟、印影、指紋等の異同を鑑定する方法及び筆蹟、印影、指紋等の異同鑑定に使用する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】筆蹟や印影の照合作業は、一般的には銀行等における印影の照合検査として多くなされている。これらの印影等の照合検査は、ある程度の確度をもって異同を判断することを目的とするもので、これらの異同検査用として印影をイメージデータとして取り込み、データ処理によって異同を判断するといった装置も提案されている。一方、筆蹟や印影の異同をより高度に判断する業務として、筆蹟や印影の異同を鑑定する業務がある。このような鑑定業務は、契約書や遺言書の印鑑の偽造、他人の筆蹟を真似た書面の偽造といった裁判等の場面で必要とされるものであって、一般の印影の照合検査等とくらべてきわめて高度の判断が求められるものである。このような、筆蹟、印影等の異同を鑑定する業務は、従来、最終的には人間による総合判断によってなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】筆蹟鑑定において異同の識別の基準となるのは、字画構成、字画形態、運筆癖(筆癖)、筆勢、筆圧、筆脈等が符合するか否かということである。文字筆蹟の癖は人によってきわめてまちまちであるが、裁判などでよく見られる例は、作為の意図によって他人の筆蹟を真似て書いた場合である。練習によって他人の筆蹟を真似ることが可能であるが、このような場合は、固有の筆癖が一致するか否かで異同を判断することができる。
【0004】この筆蹟鑑定における判断で問題となるのは、「個人内変動」をどの程度許容するかという許容範囲の判断である。同一人が、同日、同一用紙に同一文字を繰り返し書いたとしても、字形が活字のようにまったく同一になるということはなく、わずかなりとも相異部分が生じる。このように、同一人であっても一定の個人内変動は必ず生じるものであり、この個人内変動は同一と判断する許容範囲として認められてよい。しかしながら、この個人内変動に伴う許容範囲については、従来は人間の勘に頼る部分であって、常に揺れ動き、裁判等においても決め手を欠き、科学性に乏しい判断となる原因となっている。
【0005】また、印影鑑定においても同様の問題が生じる。銀行等における一般的な印影の異同識別法は、印鑑の外周形状の大きさと、刻字文字の異同を照合して判断する方法によるものである。これらの異同識別法は一般的な方法として意味がある。しかしながら、印鑑の偽造といった実際の裁判等においては、朱肉の種類、朱肉の量、押印の際の力配分や癖、用紙の種類、押印の際に使用した下敷きといった押印時の条件の相異によって、同一印鑑でも外周形状の「はみ出し」が生じるといったことも多くある。従来の印影鑑定では、このような点があいまいになり、明確な判断が下されないことがあり争点となることも多くある。
【0006】本発明は、このような筆蹟鑑定あるいは印影鑑定といったとくに高度の判断が求められる鑑定業務について、人間の勘に頼るといった判断上の不確実さを排除し、科学的で客観的な判断を可能とし、判断の揺れを防止して筆蹟、印影あるいは指紋等の正確な異同判断を可能とする異同鑑定方法及びこの異同鑑定に好適に使用することができる装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。すなわち、筆蹟、印影、指紋等の被鑑定表示物を比較対照して異同を鑑定する筆跡等の異同鑑定方法において、前記比較対照すべき被鑑定表示物を光学機器等により拡大表示し、拡大表示された被鑑定表示物を、格子状等の基準間隔線を基準として各々の被鑑定表示物の態様を視認することにより、被鑑定表示物の異同を識別することを特徴とする。
【0008】また、筆蹟、印影、指紋等の被鑑定表示物を比較対照して異同を鑑定する筆跡等の異同鑑定に使用する装置であって、前記比較対照すべき被鑑定表示物を拡大表示する拡大表示手段と、該拡大表示手段により前記被鑑定表示物を拡大表示する際に、被鑑定表示物とともに被鑑定表示物の態様を基準間隔線とともに視認するためのスケール表示手段と、前記被鑑定表示物と前記スケール表示手段による基準間隔線の像を表示する表示手段とを備えていることを特徴とする。拡大表示手段には顕微鏡等の光学機器、ズーム機能を備えた電子機器等の各種機器類が使用できる。また、表示手段にはモニターテレビ、液晶モニター等の各種表示手段が利用できる。
【0009】また、前記拡大表示手段が、被鑑定表示物を視認するための顕微鏡と、該顕微鏡による像を視認するテレビカメラ等の受像装置であり、前記スケール表示手段が、前記被鑑定表示物を前記顕微鏡により視認する際に、前記被鑑定表示物に接して使用される透明板に前記基準間隔線が表示されたスケール表示板であることを特徴とする。また、前記拡大表示手段が、被鑑定表示物を視認するための顕微鏡と、該顕微鏡による像を視認するテレビカメラ等の受像装置であり、前記スケール表示手段が、前記顕微鏡に装着可能に設けられ、底部に透明板に前記基準間隔線が設けられたスケール表示板を備えた筒状の検査用アタッチメントであることを特徴とする。また、前記拡大表示手段が、被鑑定表示物を視認するための顕微鏡と、該顕微鏡による像を視認するテレビカメラ等の受像装置を備え、前記スケール表示手段が、前記受像装置による画像を出力するモニターテレビ等の表示手段の画面に貼着して使用される、前記基準間隔線が表示された透明フィルムであることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態について添付図面とともに詳細に説明する。図1は、本発明に係る筆蹟等の異同鑑定に使用する装置の一実施形態について、その全体構成を示す説明図である。同図で10は筆蹟等の鑑定を行う被鑑定物の鑑定部位を拡大して視認するために使用する拡大表示手段としての顕微鏡である。顕微鏡10の基本的な構成は通常の顕微鏡と変わるものではない。12は顕微鏡の基台、14は対物レンズ、16は接眼レンズ、18は鏡筒である。本実施形態の顕微鏡10はテレビカメラ20によって画像を視認できるように形成されているものであり、鏡筒18の最上部にテレビカメラ20が設置されている。30はテレビカメラ20による像を表示するモニターテレビである。なお、画像を視認する機器としてはテレビカメラ20以外に適宜受像装置が利用できる。
【0011】本実施形態の顕微鏡10において特徴的な構成は被鑑定表示物を視認する器具として円筒状の検査用アタッチメント25を顕微鏡10に取り付けた点にある。22は対物レンズの下方に設置されている支持台であり、支持台22から基台12に向けて支持筒24が延出するように設けられている。検査用アタッチメント25はこの支持筒24の先端側に挿入することによって支持筒24に取り付け可能となっている。
【0012】図2(a)は検査用アタッチメント25の斜視図、図2(b)は底面図である。検査用アタッチメント25はガラス等の透明体によって形成した筒部25aの一方の端面を、ガラス等の透明板から成る底板25bによって閉止して成る。底板25bはスケール表示手段として設けたもので、底板25bには所定パターンの基準間隔線26が形成されている。すなわち、本実施形態においては、底板25bはスケール表示板として作用する。基準間隔線26は顕微鏡10によって被鑑定表示物を視認する際に、被鑑定物に表示されている筆蹟、印影等の被鑑定表示物とともにテレビカメラ20によって視認するために設けるものである。このため、底板25bは透明体によって形成し、基準間隔線26はテレビカメラ20によって視認されやすい黒色等によって表示する。図2(b)に示す例では、基準間隔線26は方眼状に形成しているが、基準間隔線26は方眼形状に限らず、縦横の間隔が異なる格子状のもの、中心から放射状に罫線が表示されたもの等、種々のパターンとすることが可能である。
【0013】被鑑定表示物を視認する際には、検査用アタッチメント25の底板25bを被鑑定物の表面に押接させて行う。底板25bは一定の厚さを有しているから、光学的誤差をなくすため基準間隔線26は底板25bの外面、すなわち被鑑定物に当接する面に表示するとよい。検査用アタッチメント25の筒部25aを透明体によって形成するのは、テレビカメラ20によって被鑑定表示物を視認する際に、検査用アタッチメント25の内部に外光を取り入れてテレビカメラ20によって被鑑定表示物と基準間隔線26とを視認しやすくするためである。筒部25a、底部25bは、ガラス、透明樹脂等の適宜材料を用いて形成することができる。透明樹脂材を用いて底板25bとともに筒部25aを一体に樹脂成形する方法によれば、検査用アタッチメント25を容易に製造することが可能である。
【0014】なお、顕微鏡10の本体に検査用アタッチメント25の内部を照明する光源を設けた場合は、検査用アタッチメント25を透明体によって形成しなくてもよい。検査用アタッチメント25の内部を照明しながら検査することができるからである。夜間に検査を行うような場合や、外光が十分とれないような場所で検査するような場合を考慮すると、顕微鏡10の本体に照明用の光源を備えておくことは有効である。
【0015】本実施形態で検査用アタッチメント25を支持筒24に外挿する円筒状に形成しているのは、支持筒24に検査用アタッチメント25を簡単に装着できるようにすること、支持筒24に対して軸線方向に可動とし被鑑定物の厚さ等に応じて上下の位置合わせが簡単にできるようにすること、鑑定作業時に検査用アタッチメント25を軸線のまわりで回動して被鑑定表示物との平面内での位置合わせが簡単にできるようにするためである。実施形態では支持筒24に単に検査用アタッチメント25を外挿して、自重で検査用アタッチメント25の底板25bが被鑑定物の表面に接するようにした。検査用アタッチメント25に係止つまみ等を設けて、検査用アタッチメント25を所定の高さ位置に固定したり、所定の回動位置に固定するようにすることも可能である。なお、支持筒24と検査用アタッチメント25との装着部に若干余裕をもたせておき、検査用アタッチメント25が微動できるようにしてわずかな位置調整ができるようにするとよい。
【0016】また、検査用アタッチメント25として、あらかじめ、基準間隔線26の線間隔や罫線の配置が異なるアタッチメントを複数種用意しておき、鑑定内容に応じて適宜検査用アタッチメント25を交換して使用するようにするのがよい。筆蹟鑑定、印影鑑定等においては、方眼の間隔が0.5mm、1.0mm、2.0mm、3.0mm、5.0mm程度の検査用アタッチメント25を用意し、適宜交換して使用することによって的確な鑑定が可能となる。また、鑑定対象によって方眼の間隔がさらに密のものが必要な場合は、線間隔がさらに狭い検査用アタッチメント25を使用すればよい。
【0017】なお、検査用アタッチメント25は後述するように、筆蹟等の被鑑定表示物の異同を識別する際に、格子状等の基準間隔線(スケール表示)とともに被鑑定表示物を視認できるようにするためのものである。上述した支持筒24に有底の円筒状の検査用アタッチメント25を取り付ける方法は、検査用アタッチメント25が好適に支持できる点で有効であるが、検査用アタッチメント25にかえて、基準間隔線26を設けた透明板のスケール表示板を被鑑定表示物の表面にのせ、スケール表示板を透過して被鑑定表示物を視認するようにしてもよい。
【0018】図1で、40はモニターテレビ30で表示された画像を写真として記録するカメラ、50はテレビカメラ20による画像を印刷して出力するプリンタである。カメラ40は、鑑定内容を鑑定資料として提出する必要がある場合にモニターテレビ30の画像を撮影して写真として記録する場合に使用する。カメラ40のかわりにプリンタによって鑑定内容をプリントアウトして保存することも可能である。また、テレビカメラ20による画像データをパソコンに取り込み可能とし、鑑定内容のデータを保存して随時データを出力させあるいは再利用することができるようにシステムを構成することも可能である。また、被鑑定表示物を表示する手段としてはモニターテレビ30に限らず液晶表示モニター等の各種表示手段を利用することができる。
【0019】以下では、本発明に係る筆蹟等の異同鑑定方法として、まず本装置を筆蹟鑑定に利用する方法について説明する。筆蹟鑑定においては、図1に示すように顕微鏡10の基台12に被鑑定物60を置き、支持筒24に検査用アタッチメント25を装着し、検査用アタッチメント25を介して被鑑定物60を視認する。図3は、被鑑定物60を基台12にのせて視認する状態を示すものである。異同を鑑定する際には、支持筒24に装着された検査用アタッチメント25の底部が被鑑定物60の表面に接した状態で視認する。接眼レンズ16から画像を視認して、被鑑定物60と検査用アタッチメント25に表示されている基準間隔線26が明りょうに視認されるように焦点を調節する。顕微鏡10によって視認された被鑑定物60の画像はテレビカメラ20によって受像され、モニターテレビ30に視認状態が表示される。
【0020】図4〜6は本装置を使用して筆蹟鑑定を行う方法を示す。ここでは、「芳」の文字筆蹟を例として説明する。図は被鑑定表示物である文字筆蹟「芳」を視認した画像を説明的に示す。検査用アタッチメント25を介して顕微鏡10により被鑑定物60を視認することにより、画面内には文字筆蹟「芳」と基準間隔線26が表示される。本実施形態の基準間隔線26は格子状に形成し、中心線を0として中心線の左右および上下に1〜15の目盛りを付したものである。このように基準間隔線26に目盛りを設けることで、入筆および終筆位置、入筆から終筆方向、筆蹟の位置関係が比較しやすくなる。
【0021】文字筆蹟と基準間隔線26との配置は、この例では、文字の中心位置が基準間隔線26の0−0線(基線)の位置に一致するように調節し、文字全体の左右方向と基準間隔線26の左右方向が略平行となるように配置する。この調整は、検査用アタッチメント25を回したり、被鑑定物60を動かしたりして行うことができる。図5は他の文字筆蹟「芳」について、同様の方法で視認した画像を示す。ここで、図4、5に示す「芳」の文字筆蹟は同一人によって書かれた文字筆蹟と判断でき、個人内変動の許容範囲にあるものと認められるものである。
【0022】すなわち、図4、5に示す文字筆蹟を比較すると、「芳」の一〜四画までは字画構成がまったく同一である。一方、五画の入筆位置についてみると、図4の例では、左側の位置が0(Aの位置)、上下位置が12(Bの位置)となっており、図5の例では、左側の位置が2(Cの位置)、上下位置が10(Dの位置)となっている。このように基準間隔線26を基準として比較すると図4と図5に示す五画の入筆位置は微妙に異なっているが、文字全体の他の画の構成や筆勢、筆圧、筆脈、筆癖などの一致からみて個人内変動の許容範囲と認められると判断できる。図4、5に示す文字筆蹟の七画についても、方向や終筆の位置が若干異なるものの、個人内変動の許容範囲内と判断できる。
【0023】図6は、他の文字筆蹟「芳」について視認した画像を示す。この場合も、「芳」の筆蹟の中心位置を基準間隔線26の基線(0−0線)に一致させるようにし、文字全体の左右方向を基準間隔線26の左右方向に一致させるようにして、各画の位置を比較検討する。図6と図4に示す筆蹟を比較すると、まず、三画の部分(Eの位置)でその方向及び入筆、終筆の位置が異なることが基準間隔線26を基準として比較することによってはっきりとわかる。また、図6の筆蹟では四画の短い画(Fの位置)の終筆の方向が図4の筆蹟の四画とくらべてまったく異なることが基準間隔線26によって比較することではっきりとわかる。また、図6の筆蹟における六画(Gの位置)と七画(Hの位置)についても、図4の筆蹟と比較してみると入筆、終筆の位置取りがまったく異なることがわかる。
【0024】上記理由から、図6と図4の筆蹟を比較すると、図6の筆蹟について個人内変動が争点となった場合には、図6と図4の筆蹟は個人内変動による許容範囲としては認められないものと判断される。この判断結果は、基準間隔線26を基準として比較判断することによって、入筆と終筆位置、入筆から終筆に向かう方向等が感覚的な判断ではなく、客観的に判断することが可能となり、科学的根拠に基づいた判断となってきわめて信頼性の高いものとなる点で特徴的である。このように、本願発明において特徴としている基準間隔線を基準として鑑定する方法は、判断基準が明確であり、客観性に富み、信頼性の高い異同識別が可能になるという特徴がある。
【0025】なお、図4〜6に示す筆蹟鑑定では、「芳」の字の中心を基準間隔線26の基線に合わせるように筆蹟と基準間隔線26の位置を調節したが、筆蹟等の異同識別に際しては、対比して比較対照しやすい位置を基準として文字と基準間隔線26との相互位置を選択するのがよい。すなわち、字の中心位置を基線位置とするのではなく、入筆位置を基線の位置として比較対照するといったことも可能である。もちろん最終的な鑑定判断においては、文字全体の画の構成や筆勢、筆圧、筆癖なども総合的に判断されるものであり、これらの判断とともに、基準間隔線に基づいた客観的な判断を併せ行うことによって、従来の鑑定作業にくらべてはるかに正確で信頼性の高い鑑定が可能となる。
【0026】図7〜9は、本装置を使用して印影を鑑定する例を示す。図7は、「早津」の印影について、上述した方法と同様に、被鑑定物60を顕微鏡10の基台12に置いて、検査用アタッチメント25を介して顕微鏡10により視認した画面の例である。図7は基準となる真印の印影で、印影とともに基準間隔線26が表示され、印影の中心を基準間隔線26の基線に一致させるように配置してある。図8は、図7と同一の印鑑を使用して押印した印影を視認した画面である。この場合も、印影の中心を基準間隔線26の基線に一致させるように配置する。印影は、朱肉の量、押印時の圧力、用紙の下敷きによってさまざまに変化するが、図8に示す例はいわゆる宿肉状態のもので同一印鑑による印影と判断される例である。
【0027】図8では、図7にくらべて印影の下方側(Iの位置)の外周部分が太くあらわれている。しかしながら、基準間隔線26を基準として図7の印影と比較すると、この外周部分についてはまったく符号している。印影の下方側部分の相異は押印者の押印癖により、印影の下方側に力が強く加わって太く表れたことと、朱肉を付けるときも同じような力が加わって余計に朱肉が印鑑に付着したものと考えられる。また、図8に示す印影では、「早」の文字(Jの位置)と「津」の文字(Kの位置)の2個所に朱肉の固まりが表れている。これは宿肉といって、朱肉を付けるときに印鑑に朱肉が付着したものである。これらの個所についても、基準間隔線26を基準として比較すると、刻字構成は図7の例と符号していることが確認でき、図8の印影は図7の印影と同一印鑑によるものと判断できる。
【0028】図9は、図7に示されている印影とは相異する印鑑による印影であると判断される例である。図9に示す印影の場合は、基準間隔線26を基準として印鑑の外周形状、刻字の形態を図7に示す印影と比較することによって、相異をあきらかに見て取ることができる。Lの位置は、偏の部分と印影の外周位置との相異、Mの位置は「津」の縦線の突き出し位置の相異、N及びOの位置は「早」の下側部分の相異、Pは外周形状の相異である。このように、印影鑑定においても、基準間隔線26を利用した異同識別は、きわめて有効である。
【0029】図10は、本装置を指紋鑑定に利用する例を示す。図10は、被鑑定物60である指紋を基準間隔線26とともに視認した画像の例を示す。指紋鑑定は筆蹟鑑定や印影鑑定にくらべるとはるかに異同識別が困難である。指紋は千差万別であり、歴然とした異なる指紋の識別は当然として、微妙な相異の指紋であっても「違いは異なり」として判断される。したがって、隆起線の形状がぴったりと符号していなくては同一とは認められず、また、指紋線が符号していたとしても「同一面積内における符合」でなければ同一と判断されない。したがって、このような条件で指紋の異同識別を判断する方法としては、本発明に係る基準間隔線を利用する異同識別方法が適している。被鑑定物60の指紋の形状が一定の基準をもって明確に比較できること、同一面積内における符合を比較判断することが容易に可能だからである。
【0030】なお、本実施形態の筆蹟等の異同鑑定方法は、上述したように、顕微鏡10を利用して被鑑定物60を視認して異同識別を行うから、被鑑定物60の被鑑定表示物を光学的に拡大して視認することにより、さらに詳細な相異についても把握することが可能である。本発明における検査用アタッチメント25に設けた基準間隔線26を基準として観察する方法は、拡大・縮小操作の際に基準間隔線26と被鑑定物60の鑑定対象位置が同倍率で拡大・縮小するから、操作性が良く、判断しやすくなるという利点もある。拡大してさらに微細な相異を比較する場合には、狭い間隔の基準間隔線26を設けた検査用アタッチメント25に交換することも容易である。また、筆蹟のように比較対象物の大きさが異なる場合は、画像データの拡大・縮小を行って対象物の大きさを揃えて比較対照することも容易であり、その際にも適宜間隔の基準間隔線26を有する検査用アタッチメント25を使用して比較対照することができる。
【0031】なお、筆蹟や印影等の異同を識別する際に、複写機を使用して筆蹟等を拡大する方法もあるが、複写機による拡大等の場合には、微妙なずれ、ブレ、伸び縮みが生じるため、必ずしも正確な判断とならない場合がある。この点、本実施形態の異同識別用の装置の場合は、基準間隔線26とともに被鑑定表示物についても拡大・縮小するからこれらの操作の際にずれ、ブレ、伸び縮み等の判断を阻害する要素が入り込まないという利点がある。
【0032】上記の鑑定方法では、テレビカメラ20で視認した画像をモニターテレビ30に表示させて異同を識別するが、資料としてテレビカメラ20で視認した画像を記録する必要がある場合は、カメラ40によってモニターテレビ30の画面を撮影して記録し、あるいはプリンタ50によって画像を出力させて使用すればよい。基準間隔線26とともに筆蹟等が表示された資料を比較対照資料とすることによって、客観的で信頼性の高い資料として提供することが可能となる。
【0033】図11は、基準間隔線を利用して筆蹟等の異同識別を行う装置の他の実施形態を示す説明図である。本実施形態の装置では被鑑定物60を視認する顕微鏡10に取り付けたテレビカメラ20による像をモニターテレビ30に表示し、モニターテレビ30の画面に基準間隔線26を表示した透明フィルム70を貼着した構成としたことを特徴とする。本実施形態においては、透明フィルム70がスケール表示手段となっている。モニターテレビ30の画面に透明フィルム70を貼着することにより、モニターテレビ30に表示された被鑑定物60の筆蹟等と基準間隔線26とを同時に視認することができ、筆蹟等の異同を基準間隔線26を基準として上記実施形態と同様に識別することが可能である。
【0034】本実施形態でモニターテレビ30の画面に貼着した透明フィルム70の基準間隔線26と被鑑定物60の鑑定対象とを位置合わせする場合は、顕微鏡10の基台12上で被鑑定物60を動かして調節する。間隔が異なる基準間隔線26を使用する場合は、透明フィルム70を貼り替えるようにすればよい。本実施形態のようにモニターテレビ30に透明フィルム70を貼着する方法による場合も、上述した実施形態と同様に、基準間隔線26を基準として筆蹟等の異同を識別するものであり、異同識別精度が低下するものではない。カメラ40でモニターテレビ30の画面を撮影することによって、異同識別の資料として鑑定書類等に利用することも同様に可能である。本実施形態の装置は上記実施形態の装置にくらべて簡易に構成でき、精度の高い筆蹟等の鑑定が可能となるという利点がある。
【0035】なお、本発明は筆蹟等の被鑑定表示物を視認して異同を識別する際に、被鑑定対象物を拡大表示することと、被鑑定表示物をスケール表示とともに視認することによって、正確で客観的な異同識別を可能にしたものである。上記実施形態では被鑑定表示物を拡大表示する方法として顕微鏡10を使用したが、拡大表示する機器はもちろん顕微鏡に限られるものではなく、ズーム機能を有する光学機器等の適宜機器を利用することが可能である。ただし、筆蹟等の異同鑑定においては、被鑑定表示物の微妙な差が問題になることがあるから、拡大・縮小等でゆがみ等が生じない一定の精度を有する機器を使用するのがよい。
【0036】
【発明の効果】本発明に係る筆蹟または印影の異同鑑定方法及び異同鑑定に使用する装置によれば、上述したように、筆蹟等の被鑑定表示物を拡大表示させて視認すること、被鑑定表示物を基準間隔線を設けたスケール表示手段とともに視認することによって、被鑑定表示部の態様を客観的にかつ科学的に比較対照することが可能となり、正確でかつ信頼性の高い筆蹟等の異同鑑定が可能になる。
【出願人】 【識別番号】597082186
【氏名又は名称】早津 輝雄
【出願日】 平成13年5月24日(2001.5.24)
【代理人】 【識別番号】100077621
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 隆夫 (外1名)
【公開番号】 特開2002−352247(P2002−352247A)
【公開日】 平成14年12月6日(2002.12.6)
【出願番号】 特願2001−155056(P2001−155056)